ゲーム

ハイパーカジュアルゲームは「シンプル化」が鍵

Nori Hayashi
9月 5, 2018

ここ数年、単純ながらも中毒性の高い「ハイパーカジュアル」ゲームが、無料アプリランキングの上位を席巻しています。Zynga がハイパーカジュアルを専門にする Gram Games を2.5億ドルで買収し、ゴールドマン・サックスはハイパーカジュアルゲームのパブリッシングを行う Voodoo に2億ドルを投資するなど、大手企業の参入も進んでいます。

このようなゲームがこれほどまでに莫大な成功を掴んでいる理由のひとつは、非常にシンプルなゲームデザインです。ハイパーカジュアルゲームのデザインは、第二次世界大戦以後のニューヨークで生まれた芸術運動「ミニマリズム」からヒントを得ています。ハイパーカジュアルゲームの多くは不完全に見え、「手抜き」に思えるものすらありますが、これは実は狙い通りのデザインなのです。

モバイルゲームの仕組みを極限までシンプルに解釈することで、ハイパーカジュアルゲームは新たなゲームデザインの可能性を探っていると言えるでしょう。

 

ゲームにおけるシンプル化の歴史

 

ゲーム分野におけるシンプルなデザインは、真新しいものではありません。例えば 1980年にバンダイナムコより発売された「パックマン」はシンプルかつ普遍的な魅力を備えたデザインで、世界中で大ヒットしました。パックマンのようなゲームは、ぱっと見ただけで遊び方がわかり、すぐスタートできるため、誰でも楽しむことができます。とはいえ、ある程度のスキルが要求されるので、ユーザーは何度も続けて遊びたくなり、プレイのたびに上達を目指すようになる、中毒性の高いゲームなのです。

 

pac-man パックマン

 

「パックマン」のような従来のゲームに見られるシンプルなデザインは魅力的ですが、このような形でゲームがデザインされていたのは、ハードウェアに制限があったからです。当時のデベロッパーは、現在発表されているようなゲームを開発するのに十分なテクノロジーがなかったので、シンプルな体験を生み出す必要があったのです。現在はテクノロジーの進化により、複雑なゲームを開発することができますが、シンプルなゲームデザインに戻る流れが見られます。

モバイルは長い間、ゲームデベロッパーがシンプル化で実験できるプラットフォームでした。App Store が10年前にデビューした頃、アプリデベロッパーは様々な制約の中で工夫を凝らしながら開発を行う必要性がありました。テレビと比べて小さなスクリーン、ユーザーの親指で遮られるゲーム画面など、デベロッパーはモバイル特有の制約を乗り越えなければなりませんでした。

次第に、ゲームは単純化され始めました。「クラッシュ・バンディクー」のコンソールのような本格体験から、「アングリーバード」のようなシンプルなゲームへ移っていったのです。そして登場したのが「Flappy Bird」でした。このゲームは、さらなるシンプル化の可能性を、モバイルゲームデベロッパーに感じさせてくれました。「Flappy Bird」 の爆発的なヒットは、たとえ大変シンプルなゲームだとしても、ユーザーに何度も挑戦を続けさせ、結果的に継続してプレイさせることができると証明したのです。

 

フラッピーバード ハイパーカジュアル

ハイパーカジュアルの走りとなった Flappy Bird

ただ一つ言えるのは、シンプルなゲームの台頭は、「より複雑な」ゲームの居場所を奪ってしまったわけではないということです。このことは、「Fortnite」 や 「PUBG」 のように、コンソールやPCゲームをモバイルでもプレイできる形のゲームが人気を集めていることからも読み取れます。

 

ハイパーカジュアルゲームにおけるシンプル化

 

ハイパーカジュアルゲームのシンプル化について、AppLovin のメディア事業部である Lion Studios がパブリッシングしているゲーム 「Happy Glass」 (Android | iOS)を例にとって見てみましょう。このゲームでは、線を引いてこぼれないように水をコップで受け止め、一定量の水でコップを満たすとレベルクリアとなります。ゲーム中に複雑なチュートリアルは用意されていませんが、プレイヤーはすぐにルールを理解することができます。「Ultra Sharp」(iOS)もまた同様のシンプルさが特徴で、図形を直線でカットし、カットされた破片で星をタッチするのがゴールです。どちらも大変シンプルなゲームデザインですが、依然として難易度は高く、何度もプレイさせる中毒性を持っています。

 

ハイパーカジュアル

 

ゲームにおいて、「シンプル化」は見た目、システム、ストーリー性のいずれにも当てはまります。ハイパーカジュアルゲームは基本的に、この全ての要素がシンプルです。もちろん、ハイパーカジュアルゲームの多くはパズルゲームであるため、ストーリー性は必ずしも必要ではありません。とはいえ、Happy Glass は「グラスを水で満たし、グラスを笑顔にする」というシンプルなストーリーがあり、ハイパーカジュアルにおいてもストーリーが存在できるということを示しています。

芸術における「ミニマリズム」が批判されるのと同じように、ゲームデザインのシンプル化を批判する人もいます。シンプルすぎるがゆえに、ハイパーカジュアルを軽視する人もいるかもしれませんが、実際のところハイパーカジュアルゲームの制作にはかなりの配慮がなされています。デベロッパーは、複雑なチュートリアルを作る代わりに、できる限り一番簡単で自然な方法でストーリーを表現し、ゲームの仕組みをユーザーに伝えるにはどうすればいいかを追求しなければならないのです。

ハイパーカジュアルゲームの市場は成熟してきています。それにつれて、デベロッパーがいかにシンプルなデザインで新しいユーザー体験を生み出していくのかが、今後注目されます。

 

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