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大きな変化を待ち続けるモバイル用ARゲーム

Yuki Manno
2月 28, 2019

モバイル用ARゲームは転換期を迎えています。

世界のゲーム市場が拡大する中、AR ゲームを開発するための 5G ネットワークや専用デバイスを始め、多くのツールが出現してきています。過去20年間にわたり、AR を利用したモバイルゲームの制作は、モバイルで実現可能なことへの考えや希望、夢を刺激し続けてきました。

過去を振り返ってみると、AR の研究者やデベロッパー、大手電気通信企業、そして世界の有名ブランドによる多くの研究と具体的な事例は、この市場全体の重要な原動力となってきました。

AR ゲームへの取り組みが20年以上も続いているのにもかかわらず、なかなか大きなムーブメントが起きないのは何故でしょうか。AR モバイルゲームは今後、大きな変化を見せるのでしょうか、それともこれからも、Pokémon Go に似たものになるのでしょうか。このマーケットがどこに向かっているのかを理解するために、まずは今まで辿ってきた道を振り返ってみましょう。

 

モバイル用ARゲームの夜明け:1998 – 2004

モバイル、ゲーム、そして AR が将来生み出すであろうチャンスに対しては、早くから様々な予想がありました。iPhone が発表されるちょうど10年前の1997年の、韓国の東西大学の二人の博士候補者の発表を紹介します。二人は論文の中で、手で持って操作する「スマートフォン」デバイスについて商業的に望ましい側面を論じ、次のように指摘しました。

「第一に、それは社会的に受容されるものでなければならない。第二に、ユーザーが自然な方法でシステムとやりとりできなければならない。最後に、操作中にユーザーが奇異な目で見られないように、デバイスは流行の観点で受容されるものでなくてはならない」

この指摘は、1997年という時代を考えると非常に鋭いものであると言えるでしょう。

2004年までは、モバイルデバイスの性能はわずかに向上したものの、十分ではありませんでした。これについては、「モバイルゲーム:ユーザー体験を理解する」という論文の中で次のように述べられています。「グラフィック、インタラクション、そしてコンテンツの面からみた現在のモバイルゲームは、現代のコンソールゲームが提供するものよりは、20年前のコンピューターのものにより近い」。

同論文では続けて、「ユビキタス(いつでもどこでも意識せずに、情報通信技術を利用できること)テクノロジーのエンターテイメント性と拡張現実の潜在能力により、他人との存在の近さとモバイル環境そのものを、ゲーム体験の一部分にする」ことにも言及しています。結果的には、本当に注目すべき体験をもたらすものはほとんどありませんでしたが、そんな状況もすぐに終わることになりました。というのも、iPhone と App Store の登場とともに、私たちがよく知る「スマートフォン」が何ができるのか、広く知られるようになったからです。

 

iPhoneの誕生:2007 – 2012

2007年に iPhone が初めて発売され、App Store はその翌年に登場しました。2010年頃には、 iPhone はすでに時代を象徴するシンボルになっており、モバイルARゲームがいくつも開発されて広く普及しました。ARCade by HSPC は、パックマンの30周年を記念して「Layar」を開発しました。パックマンのように実際の画面の中に現れるカラフルなモンスターを避けながら、黄色いドットを追いかけてパクパクと食べるゲームです。ユーザーが歩く、実際の環境に表示されるモンスターとやりとりする体験は、Pokémon Go の先駆けのように感じるでしょう。

Pokémon Go は今でも、史上最も人気を得たモバイル用 AR ゲームです。

しかし、2010年時点で AR ゲームを開発していたのは、スタートアップ企業でも、従来のソフトウェア企業でもありませんでした。モバイル通信大手の Qualcomm が、おもちゃメーカーのMattelと協力して、Mattel の名作ゲームである「ロックン・ソックン・ロボット」のAR版を発表したのです。

スマートフォンで Qualcomm 製のカメラを使うと、ユーザーは現実に重ね合わされた仮想ロボットをディスプレイで見ることができます。ボタンを押すとパンチを繰り出し、仮想リングとなるボードの周囲でスマートフォンを動かすと、操作するロボットも実際に動きます。

実際にプレイしている様子を見れば、現代の AR 体験がどれほど向上したかを実感するだけでなく、ARゲームを収益化するために仮想スクリーンを利用することのチャンスも理解することができるでしょう。2010年に App Store で発生した収益額は52億ドルで、今日におけるものと比べると些細なものでした。(2018年は、上半期だけで226億ドル)また、当時はゲームが売上に占める割合はたった16%でしたが、よりよいユーザー体験のために、市場の予測者はAR ゲームアプリに広告を導入することを期待していました。

 

「拡張現実はユーザー体験を高めるだけでなく、広告主にとっても素晴らしい手段です。デバイスと物理世界をインタラクティブに同期することで、消費者へのリーチを向上させることができます」

Mark Donovan, Senior Analyst at ComScore in 2010.

 

さらに興味深いのは、「ロックン・ソックン・ロボット」が Qualcomm のAR開発キットで作られたということです。このキットは、Android スマートフォンで何ができるのか、を紹介する目的で Qualcomm がデベロッパーのために制作したものです。Google の ARCore が発表されたのは、このキットが登場してから8年後でした。先見の明にあふれていた Qualcommは、需要と市場機会を適切に捉えて、デバイス製造会社と AR アプリを制作したいデベロッパーとの橋渡しをしたのです。

 

モバイル用ARゲームの現状

今日、モバイル分野において、私たちが「誰よりも先に」解決しようとしている AR の課題には、超高速 5G 接続上での体験を最適化することや、世界を席巻する AR ゲーム用のデバイス(電話であれウェアラブル端末であれ)を発見すること、AR ゲーム体験を開発してそこから収益をあげてもらえるようにデベロッパーに対してより大きなインセンティブを与えること、等があります。かつて、このようなことがあったことは、既に書いた通りです。

過去にも 3G から 4G への変化のような、次世代ネットワークへの交代がありました。今後も、5Gからさらにネットワーク革命が起こるでしょう。モバイル市場は今後も、プラットフォーム、中間業者、地域ごとに分裂と変化を続け、デベロッパー、マーケター、そしてブランドから、モバイル用 AR ゲームのファンを熱中させるためのツールがさらにたくさん登場することが予想されます。

ARKit と ARCore は良いスタートです。デベロッパーは以前よりもはるかに簡単に、素早くARゲームを制作できます。Pokémon Go はあくまでも始まりにすぎません。私たちは現在、Smash Tanks や Knightfall AR、そして My Tamagotchi Forever などの革新的なゲームがモバイルにやってきているのを目の当たりにしています。

とはいえ、ARは今も「キラーアプリ」の登場を待っています。Pokémon Go は、非常に強力なIP のおかげで、しばらくの間はキラーアプリでした。しかし、モバイルゲーマーは常に何か新しいものを求めているのです。

ハイパーカジュアルゲームと、フォートナイトや PUBG などのコンソールポートがモバイルを支配する中では、AR ゲームデベロッパーはより没頭できる体験を作り出すのが賢明でしょう。というのも、ハイパーカジュアルゲームの場合とは異なり、列に並んでいる時や通勤の時間帯に、ユーザーが AR ゲームを起動する見込みはないからです。プラットフォームとしての AR は、うまくやれば間違いなく熱中できるものになります。AR ゲーム成功の鍵は、ユーザーに対して他では味わえない体験という価値を提供できるかどうかにかかっているといえるでしょう。

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