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音声アシスタントが次なるマーケティングプラットフォームとなる理由とは?

Yuki Manno
1月 17, 2018
AppLovin アップラビン AIスピーカー スマートスピーカー

2017年は日本における「AIスピーカー元年」と言われた年でした。LINE の「Clova WAVE」、Google の「Google Home」、Amazonの「Amazon Echo」が次々と市場に投入され、各社がTVCMをはじめ交通広告等にも大量に出稿を行ったことで、大きな盛り上がりをみせたといえます。

AI スピーカーの要は Google AssistantAmazon Alexa、LINEのClovaといった「音声アシスタント」です。 その他にも Microsoft CortanaApple の Siri など、様々な種類の音声アシスタントの登場により、これまでには考えられなかったようなマーケティングのチャンスが生まれています。

音、聴覚、音楽などを利用する「サウンドブランディング」(Sonic Identity) がマーケティングの鍵を握る、新たな時代が到来してきています。ターゲットは個人に限られません。車やリビングといった、空間を共にする家族や友達の集まりなど、より大きなものも対象とします。

マーケターにとって新たなメディアの誕生は歓迎すべきことですが、活用するにあたっての疑問や課題がいくつかあります。今回はこうした課題を考えてみます。

 

音声という新たな分野

音声は利用者により近いメディアとして、マイクロモーメント(Google が提唱する言葉で、現代のモバイル環境での消費活動を表す)でユーザーを捉えることができます。今までマーケターが多くの時間を注いできた、数々のメディアからデータを集め、活用することを代替するとも見ることができるのではないでしょうか。

すでに動画広告に大規模な投資をしている場合には、そのままの戦略で突き進むべきか、あるいは音声の分野に予算を配分すべきか悩むでしょう。ただ、音声広告は動画広告に比べて制作費用が割安ですが、音声だけでは効果的な広告にはなりません。

音楽ストリーミングサービスの Spotify や Soundcloud などは、それぞれのプラットフォームで使えるオプションを提供していますが、現状のオンライン広告のような、プログラマティックな技術はまだありません。また、ユーザーの検索方法は音声入力とテキスト入力ではあまり共通点がないため、これまでの20年間で蓄積してきた検索キーワードのデータが役立つかどうかは不明です。

近年は広告のパーソナライズ化がトレンドですが、音声アシスタントの対象は、個人ではなくそれが聞こえる範囲内にいる興味や動機が異なる複数の人となります。つまり、そこにリーチするためには、ユーザー行動に基づくマーケティングではなく、特徴を基にしたグループをターゲットにする従来型の方法に回帰する必要があるかもしれません。

最後に重要なことですが、音声アシスタントがユーザーの発する言葉をすべて「聞いて」いるという倫理的問題もあります。データ収集やターゲット広告とプライバシー侵害の線引はどうなるのでしょうか。

音声広告が盛り上がりつつあるなか、こうした問題の解決は喫緊の課題です。

 

ユーザーが AI と築く信頼関係がポイント

音声アシスタントが爆発的に広がると考えられる理由はいくつかあります。

1つ目は、ハードウェア・ソフトウェア問わず、音声アシスタントは多様なテクノロジーとの親和性が高いという点です。家や車等の、どこでもすぐにネットワークにアクセスできるデバイス、そして AI やチャットボットなど、デベロッパーが音声体験を提供できるようなプラットフォームツール。こういったあらゆるテクノロジーの融合は、音声アシスタントが一般化する流れにつながるはずです。

2つ目は、音声機能が意外な層で受け入れられている点です。音声アシスタントのユーザーの25%は55歳以上です。マウスポインタを合わせたりクリックしたり、あるいはタッチスクリーンの操作など新たな技術をマスターする必要はなく、ただしゃべればよいだけという単純さが受け入れられている理由でしょう。

アメリカの音楽ストリーミングサービスである Pandora の Pandora for Brands は、「自分の声によるコミュニケーションは最も親密なものです。スマートスピーカーのユーザーに利用方法を聞いたところ、人間的なコミュニケーションが非常に多いことがわかりました。毎週天気をチェックするユーザーは46%、冗談を言わせようとするユーザーは42%、一般的な質問をするのは40%でした。実用的な目的(一般的な質問)よりも冗談を言わせるという『人間味のある』行動のほうが多いというのは興味深いことです」と述べています。

現在スマートスピーカーを利用しているユーザーから、音声アシスタントはかなり人間的に捉えられているようです。

ユーザーのこういったポジティブな感情は、エンゲージメントと信頼の構築につながります。これは、マーケターにとっては見逃せないポイントです。

 

音声だけではうまく機能しない

とはいえ音声が、マーケティングにおいて独立したチャネルとして機能することはないでしょう。

まず、音声だけのメッセージは、音声とビジュアルが合わさった場合に比べてユーザーの記憶に残りづらいものです。また、多くの一般的な使用方法において、音声だけでは目的を果たすのが難しくなります。

雑誌 Wired のガジェット評論家 David Pierce 氏は、「おしゃべりなコンピューターの未来を描くとき、その限界も見えてきます。音声入力でフライトを予約することは可能ですが、価格一覧を見ながら予約するほうがずっと簡単ではないでしょうか。タイマーを6つ設定したとして、どれが鳴り終わったか覚えておくのは音声だけでは難しいでしょう。音声だけのゲームは面白いかもしれませんが、見たり触ったりできるものほどではないでしょう」と指摘しています。

音声だけの欠点を補うために生まれた解決策の一つが、音声アシスタントにタッチスクリーンがついた Amazon の Echo Show(エコーショー)です。Alexa  が料理の仕方を音声だけでなく画面で披露してくれるのです。オンラインショッピングをするにしても、色のチョイスを Alexa  が見せてくれて、ユーザーはその中から注文することができます。

この場合、ユーザーが声でアシスタントとタッチスクリーンを操作して目的を果たす形になります。

 

ターゲットは音声が聞こえる範囲すべて

この数年間、多くのマーケターは膨大なデータを使って、いかに個人ユーザーにパーソナライズ化した体験を提供するかに力を注いできたはずです。

ところが音声アシスタントはこれまでのスマートフォンのような使われ方はされません。

音声アシスタントはリビングやダイニングなどに置かれ、スマホのようにポケットやバッグに収まることはありません。会話は周辺の人にも聞こえます。夫婦が料理をしている脇で子供たちがくつろいでいる家庭の場合、音声マーケティングのターゲットをどうするべきか考えなければなりません。

そしてユーザーには、音声アシスタントのAIとも共有したくないことがあるはずです。それはもちろん、マーケターに対しても同じです。音声アシスタントは次の指示や質問を待ち構えて、常に声を聞いています。マーケターはプライバシーの問題にも向き合わなければならなくなるでしょう。

音声広告をいち早く提供しているPandora は、現状の収益が見通しを下回る結果となりましたが、要因は広告ネットワークやトラッキング機能がきちんと整備されていないことだと報告しています。つまり、音声マーケティングはPandoraのようなオーディオ専門の企業にとっても未知の世界だということです。

富士経済によると、2025年までに日本国内のスマートスピーカーの市場は2017年対比 9倍になると予想されています。使用者が増えるとともにユーザーの利用シーンも多様化していくとみられます。音声マーケティングは間違いなく可能性を秘めた分野ではありますが、マーケティング戦略については、使い慣れたユーザーが増えると共に確立されていくものだといえるでしょう。

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